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コラム

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こころのバランスを保つには(vol.50)

2014.03.18

感情を使う仕事

私たちは普段、何らかの演技をして生きています。上司として、部下として、社員として、夫や妻として、親として...。暗黙に求められる役割に合った振る舞いを無意識的にしており、仕事としてそれが求められることもあります。例えば、私たちは髪を切ってもらうために美容院に行きますが、美容師さんが終始無言であったらなんとなく不満に感じませんか。また、病院で看護師さんに採血をしてもらうときには、不安を和らげてくれる表情や言葉かけを期待するでしょう。このように、サービスの提供だけでなく、相手(顧客、患者、子ども等々)に特定の感情(主に快適な状態)を生じさせるために、表情や態度、自身の感情をコントロールすることに価値が置かれる労働を、感情労働といいます(A.R.ホックシールド)。

演技のしすぎに要注意

感情労働では、「営業スマイル」や「接遇マナー」などの『演技』が求められます。
例えば、スーパーで勤めるAさんとBさんがいたとしましょう。そのスーパーには、来店しては商品に難癖をつける常連客がいます。このお客さんに対して、Aさんは営業スマイルを浮かべながら淡々と対応し、帰った後にバックヤードで同僚に不満をぶちまけています。一方、Bさんも笑顔で懇切丁寧に対応しますが、帰った後に同僚に話すことはなく、少し落ち込んだ様子で黙々と仕事を続けています。Bさんは、「心からの笑顔で接客をしなければならない」と思っており、Aさんのようにお客さんの悪口を言うことが許せませんでした...。

Aさんのようなマニュアル的な接客態度のことを「表層演技」といいます。これに対して、Bさんのように本心から行おうとする接客態度のことを「深層演技」といいます。「深層演技」は、本人の仕事のスタンスとして行われる場合もあれば、業務命令や世間の期待によって求められる場合もあり、一般的には接客業やサービス業、医療・介護・教育等の対人援助業などでよく見られる現象です。
この「深層演技」と「表層演技」との大きな違いは、相手に対するネガティブな感情を感じないように(否認)しようとするという点にあります。

ホンネはどこに?

Bさんのように、心からの笑顔で接しようとするのは、とても良いことのように聞こえますよね。しかし、実は怖い側面があるのです。
本当は嫌いなのに「そう思ってはいけない」と気持ちを否定する。本当はつらいのに「つらさを見せてはいけない」と元気に振る舞う。子育て中の人であれば、本当はイライラしているのに「よい親でなければならない」と、子どもにひきつった笑顔を向けるということもあるでしょう。そうやって自分の感情を感じないようにする(否認)ことが常態化すると、だんだんと自分の気持ちがわからなくなっていきます。しかも、ネガティブな感情は積もり積もっていきますので、いつか爆発してキレてしまったり、逆にうつ状態に陥ってしまうかもしれません。例えば、この分野での第一人者であるA.R.ホックシールド氏は勤勉な客室乗務員の心の葛藤を取り上げていますし、感情労働に関する著書のある武井麻子氏は優しい介護職員が高齢者に危害を加えてしまう例を挙げています。
もちろん、「深層演技」が仕事のやりがいになることも大いにあります。大事なのは、「本当は...」の部分を自覚しておくこと、できればそれをどこかで発散しておくということです。

こころのバランスを保つ

輝かしい舞台の裏側はお客さんには見えないものです。顧客にニコニコしている人は自社で怒鳴り散らしているかもしれません。職場でニコニコしている人は家で愚痴ってばかりいるかもしれません。家でニコニコ子育てをしていた妻は帰宅した夫に不平不満を吐き出しているかもしれません。それがよいか悪いかは別として、精神面でみればそのようにしてバランスをとっていると考えることができます。演技する場面が多い人ほど、自分らしくいられる場所を持ちましょう。できればそれは一つだけでなく、家族、友人、同僚、趣味など、たくさん持てればいいですね。そういう場所がないという方は、ぜひ相談ダイヤルをお試しください。気持ちをはきだすだけでも十分楽になりますよ。

【参照文献】
A.R.ホックシールド著、石川准・室伏亜紀訳(2000)「管理される心-感情が商品になるとき」世界思想社
武井麻子著(2006)「ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか-感情労働の時代」大和書房

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